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満天の星 番外編 ~妹、梨華の恋~   恋する気持ち ⑤

Author: 紅城真琴
last update Last Updated: 2025-07-11 18:14:41

ラーメン屋さんを出ると、先生は黙って歩き出した。

「どこへ行くんですか?」

分かっているけれど、聞いてみる。

「家まで送るよ」

やっぱり。

「先生。もういいです。後は自分で帰ります」

「ダメ」

はあ?

「信じられない」

「どういう意味ですか?」

この期に及んで逃げ出すとでも思っているだろうか。

「なあ竹浦、ちょっと座れ」

そう言って近くにベンチに座った先生。

私も並んで座った。

「こんな話をすると、本当に説教くさい教師みたいで嫌なんだが」

わざわざ前置きをして、先生は話し出した。

「俺も中学から高校時代は反抗ばかりしていた。親の言うことも先生の言うこともきかなかった。今のお前と一緒だよ。当時の俺も単位がたらなくて、高校卒業が怪しかった」

へえー。

「おかしいだろう?その俺が教師なんて」

クククッ。

自分で言って、自分で笑ってる。

「でもな、高校3年の時に一大決心をして教師になろうと決めたんだ。それからは必死に勉強して、一浪して大学に入った。正直、両親や兄姉や先生。みんながいてくれたから頑張れた」

すごく懐かしそう。

「先生は幸せなお家に育ったんですね」

「えっ?」

意外そうに私を見る先生。

「我が家は違います。そんな幸せな家庭ではありません。私にとっては居心地の悪い場所なんです」

吐き捨てるように言った。

家族の誰も私の事なんて心配していない。

私は見捨てられた子だから。

「それはお前がそう思っているだけ。子供がかわいくない親はいない」

そうかなあ。そんなことない。

フツフツと込み上げてくる怒りに、私は黙っていられなかった。

「私には兄と姉がいるんです」
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